ii-ie.com®「いい家」つくる会®

海外視察旅行記
世界に誇れる、
住み心地いちばんの家を目指して

2014年9月
イギリスフランスデンマーク
ロンドン・パリ・デンマーク編

ヨーロッパの機械換気の現状視察

英国パッシブハウス・コンフェレンス2014

イギリス在住の省エネコンサルタントである荒川英敏さんから、16日にロンドン郊外のスチブネス市で行われた「英国パッシブハウス・コンフェレンス2014」について報告をいただいた。


「パッシブハウス」というのは、ドイツパッシブハウス研究所が規定する性能基準を満たす認定住宅である。その基準は、世界各国の省エネルギー基準の中で最も厳しいとされ基準を満たすためには、断熱・気密性能、窓・換気装置の選別、熱損失・消費エネルギーの計算などハイレベルな設計並びに施工力が求められる。

それ故、わが国では、もともとドイツ指向の強い建築家や設計士、評論家がこの認定を受けないことには高性能住宅とは言えないと声高に主張するようになった。


しかし、北海道で気温がマイナス20度以下にもなるようなところで建てるならともかく、津軽海峡以南の温暖地では性能過剰であり、かえって住み心地が悪くなる、と私は5年ほど前から主張している。

実際に、体感してみるとよく分かるのだが、ほとんどといってよいくらい、高温多湿・梅雨 という特殊な気候に配慮されていない。

9月30日の「放射熱の圧迫感」を再読されたい。

「放射熱の圧迫感」

以下は、荒川さんの感想の一部である。

意外だったのは、全世界でのパッシブハウス基準での建築戸数が、昨年で37000戸と少なく、英国では250戸とまだまだパッシブハウスは黎明期であると認識しました。


パッシブハウス基準はエンベロープ(外皮)の断熱性能と気密性能の向上に重きを置き、室内空気環境の維持のためにMVHR(第一種熱交換型換気)を必須としていますが、メンテナンスについては基準には明記されていません。

しかしながらその重要性については、講演のテーマの一つとして取り上げられており、松井さんがゼロ・カーボンハウス・ハブで熱弁を振るわれたのと同じく、各講師が繰り返し強調していたのは、アクセスのしやすさと住人のフィルター管理への理解と協力の大切さです。「涼温換気システム」は、その点でも世界のトップを走っていると再確認しました。


出展企業の中で目立ったのが窓・サッシのメーカーでした。いずれもパッシブハウス基準の窓の熱貫流率0.85w/m2を達成する為に、トリプルガラス(三重ガラス)窓が主流で、出展メーカーのトリプルガラス窓は、熱貫流率が0.6w/m2から0.7w/m2の性能を持っているものでした。マツミハウジングでもエンベロープの断熱性能の更なる向上に、トリプルガラスの採用を積極化する必要があるのではないか、つまり、換気とともに窓を重視することが大事であると思います。


講師のジョン・デフバー氏(建築家)の意見が印象的でした。

<パッシブハウス(PH)基準は一つの性能基準で、必ずしも顧客に取っての理想的な住宅だとは思わない。何故ならばPH基準を満たす為にPH認定の部材を使わなければならない。これは実は矛盾している。顧客に取ってのベストな住宅は、まずは建築基準を遵守しながら、いかに顧客が快適に過ごせるかを考え、これを追求してエンベロープを決め、そして換気システムつまりMVHRを入れて、顧客が快適な居住環境をコントロール出来るように、つまりMVHRのフィルターの清掃が極めて容易に出来るように配慮することである。

顧客から快適でないとの苦情が来るのは、顧客が悪いのではなく建てる側、つまり設計と工法と現場が悪いことを我々が認識しないと顧客はついてこないだろう。>


この意見は、松井さんの考えと同じであり正論だと思いました。


今回のコンフェレンスで講師をはじめ数人の建築家と面識が出来、今後、住宅に関連する様々な問題点や疑問の解決のネットワークが増強できたことは大きな収穫です。

第一種全熱交換型換気は不要か?

第一種全熱交換型換気は不要か?

(イギリスで使われている第一種熱交換型換気装置MVHR)


北村忠男著/住宅づくりの新しい常識という副題のついた「高気密木造住宅をもっと知ろう」(幻冬舎ルネッサンス)を読んだ。

木造軸組住宅の高気密化の必要性を訴えている点は、高く評価していい。高気密化を図れば、「換気」が必要になるという流れも異論はない。

しかしである。

第一種全熱交換型換気についての下記の見解には、大いに疑問を覚えた。


<参考までに衛生面では、ヨーロッパ各国では住宅用熱交換器の方式に関して1970年代から全熱交換方式は非衛生的と断定しており熱交換方式は「顕熱方式」を使用しています。

それは「全熱交換器は、排気空気内の水分や汚染物が全熱交換器のエレメントを通過してしまい、衛生的であるべき給気側に汚染物質がリーク(漏れる)する」という理由からです。衛生上の点で給気を長いダクトで行う事や、熱交換器の利用はいずれもその構造内にカビ等が繁殖する事を防げず、シックハウスの原因となる事が長い経験から判明し、1990年代初めにダクト内の清掃を強制化する法律が出来ました。>


この話は、私が機械換気の必要性に目覚めた1992年頃には、日本の住宅業界でも知られており、そのためほとんどの造り手は、給気にダクトを必要としない第三種換気を選択した。

しかし考えてみれば、全熱交換の過程において5%前後のリークやリターンがあるとしても、生活上の不都合はほとんど感じられないし、それをもって不衛生だとは決めつけ難い。第三種のデメリットと比較すると問題にならない。


ヨーロッパで全熱交換が採用されないのは、当初の機械の性能に問題があったのと、何よりの理由は気候的にその必要性がほとんどないからである。

今では、これまでに再三紹介したようにヨーロッパ・北欧では顕熱交換型第一種換気が常識化しているが、北村さんは、「熱交換器換気装置は本当に省エネなのか」と、観念的な疑問を呈し、「エネルギー的にも地球環境にやさしくなく、省エネルギーの優位性はない」と断定している。

ヨーロッパで、こんな考えを披露したら笑いものになりかねない。


どうやらこの方の思考は、熱交換効率60%程度でしかなかった20年前で停止してしまったようである。

最近では、日本の津軽海峡以南に於いて、全熱交換はエネルギー的にも快適さにおいても必要であるという認識の高まりを否定するわけにはいかない。

それは「涼温換気」が、ゼロ・エネルギー化推進事業補助金交付に採択されたことからも頷ける。北村さんの意見が正しいとしたら、国土交通省が採択するわけがない。