ii-ie.com®「いい家」つくる会®

海外視察旅行記
世界に誇れる、
住み心地いちばんの家を目指して

2012年9月
イギリスイギリス編

イギリス最先端の家づくり視察

英国建築技術研究所訪問

低所得者層向けに開発されたという6棟ほどの最先端省エネ住宅のデザインは、極めて無機質的でつまらなく、チャールズ皇太子が見学に来て嘆かれたという心境が納得できた。


どの建物も玄関に入った瞬間の空気が、「新換気SA-SHEの家」より間違いなく劣っている。よどみ感があり、「新築の臭い」もある。これでは、設計思想や建材類の選択に盛んに用いられているサステナブルやオーガニックという言葉が色あせたものに感じられてしまう。


各々の感性を大切にするため、久保田さんとは別々の建物を見て歩き、昼食のときに感想を話し合った。

久保田さんは開口一番、「中にいるのが苦しく感じられる家が数軒ありました」と言った。さらに、「昨夜お邪魔させていただいた荒川さんのお家の方が、はるかに空気が気持ちよかったです」と。

私も同感したので、荒川さんは困惑顔して言った。

「松井さんにはセンターシャフト的な発想を取り組み、ロケーションもすばらしい家だとほめられましたが、なんと言っても50年以上昔の建物ですからね。センターシャフトを用いた暖房換気は今では使っていませんので換気はごく自然な窓開け換気なのですよ。私の家の方が最先端住宅よりも空気が気持ちいいなんて、ちょっとおかしな感じがします」

そこで私はこんな質問をしてみた。

英国建築技術研究所訪問

「ところで荒川さん、いま見てきた住宅の中で、これだけはデザインがまあまあだとチャールズ皇太子が認めたという家(写真)と、ご自宅を等価交換してくれると言われたらどうしますか?」

「そうですね。まず、断るでしょう。断熱性能では比較にもなりませんが、お二人が言われるように空気の質感が合いませんね。妻も同じようなことを言うと思います」

空気の質という点で、最先端住宅は50年前に建てられた家にかなわない。これは考えさせられる話だった。イギリスでは、新築住宅の着工数は年間で10万戸以下、中古は2000万戸以上と聞く。よほど換気システムを考えないと、中古住宅の断熱改修は満足が得られにくいのではなかろうか。


見終わって、事務所で広報担当のグラハム・ハードキャッスルさんと会談した。

「ここでの収益は、最先端住宅造りの研究開発に使われています。学生も多いですが、世界中から見学者や企業関係の方々が年間2万人近くやってきます。

最近ではキャメロン首相もやってきましたよ」

氏は誇らしげに言われた。


換気システムに関する話には、要領を得ないことが多かった。

私の不満顔を察してか、氏は歯医者の家を見せてくれた。そこでは第一種換気装置を用いている。暖房は南側の壁体に設置された太陽光の集熱パネルからの熱、それにヒートポンプエアコンを加えた暖気を(「涼温換気」とは似て非なのものだが)換気装置の手前でミックスして、室内からのリターン空気とともに各室の天井から給気する。そして、汚れた空気は浴室・トイレから排出する。

肝心な換気の経路は「新換気」とは逆であり、従来のやり方である。

氏は、「換気回数をいかに増やすかが重要だ」と力説されたが、これでは「新換気の家」で生活している私と久保田さん、そして「窓開け換気」の荒川さんにとっても満足できるものではなかった。


今日はこれから、いよいよこの旅行の目玉であるリチャード・ホークス設計事務所を訪問する。外は曇りで18度ぐらい。寒そうに見える。

「逆転の発想」がどのような評価を受けるか、楽しみである。

「なんだ、
もっといいシステムがあるではないか!」

「なんだ、もっといいシステムがあるではないか!」

15日にロンドンから電車で1時間Swindomにある英国住宅新築・改築センターを訪問した。「涼温換気」に似たシステムを3社が展示しているのを見るのが目的である。


今日17日(月)、その中で一番気になったThe Unico System社にホテルに来てもらい、ミーティングルームでプレゼンをしてもらった。荒川さんは帰国し、予定した通訳が来れなくなったので、久保田さんと二人で懇談した。

冷房・暖房はダイキンか三菱製のエアコンを用いているのだが、関心を惹かれるのはユニークな断熱・消音ダクトだ(テーブルの上にある銀色のもの)。スモールダクトというだけに外周が9cm弱、内径が5cm弱という細身である。

こんなに細くしたのでは空気抵抗が増し、空気搬送のエネルギーが増大し、ランニングコストが増えてしまうと常識的には判断してしまう。

それに、モーターの音や風音も高くなり使い物にならないはずだとも。

ところがアメリカへ年間2万台ぐらいも輸出されているというのだから、そんな推測は間違っているに違いない。ダクトのサンプルについて仔細に観察すると、確かに優れものである。

「涼温換気」には用いるところがないのだが、このUnicoシステムが日本に入ってきたとき、センターダクト方式と優劣が競われることになるであろう。

お客様から、「なんだ、もっといいシステムがあるではないか!」とクレームをいただくことは絶対に避けなければならない。

だから、約2時間に渡って営業担当役員であるRon Butteryさんと懸命に意見交換をした。


その結果明らかになったことは、換気において、「涼温換気」の方が断然優れているということである。冷・暖機能に関しては体感しないことには優劣は判らないことだが、説明上ではアメリカ人に好まれそうに感じた。


外気は決して安心なものではないという前提に立ち、越境大気汚染の影響や、「環八雲」などのことを考えると、室内空気質を確実に改善できる換気システムの選択は必須である。

工事がしやすく、手っ取り早く冷・暖房ができるということだけではお客様にお勧めするわけにはいかない。

しかしながら、徹底した比較をしておきたいのでプラン依頼をしてみたところRonさんは快く引き受けてくれた。


これは、今日社員から入ったメールである。

<新規のお客様のご案内の前に、体感ハウスを確認に行きました。涼温換気26℃設定弱運転で、1・2階とも25℃/54%、小屋裏は26℃でした。外部は通り雨があったこともあって一段と蒸し暑かったのですが、玄関を入った瞬間、涼温換気の家独特の涼しさがとても快適でした。

それだけに、体感ハウスを出た時の蒸し暑さはさらに一段と増して感じられ、内部の快適さを思い知らされました。

その後、体感されたお客様は、あまりの快適さにすっかり驚かれていたと案内した設計担当が言っていました。>

AIRFLOW社

AIRFLOW社 1
AIRFLOW社 2

ロンドンの北へ向かって電車に約30分乗るとHigh Wycombe駅に着く。駅の近くに建ち並ぶ不動産業者の店の多さから、この街での中古物件の売買の活況が推測できる。

タクシーで約10分、訪問先であるAIRFLOW社にたどり着いた。

社長のAlan Sigginsさんと、技術担当のGliveGreenstreetさんが満面の笑みで出迎えてくれ、赤色の細いダクトを使った熱交換換気システム(イギリスではMVHR=Mechanical Ventilation Heat Recoveryと呼ばれている)についてのプレゼンテーションをしてくれた。

わざわざ訪問したのは、前回書いたThe Unico System社が誇る「スモールダクト」との違いを実際に見て確認しておきたかったからだ。

換気システムが住み心地に与える影響の度合いは、換気装置とダクトによって決まる。それらは自転車の両輪と同じで、両方がバランスよく機能することが大事である。一方がどんなに優れていても、他方が劣れば健康増進に役立つ住み心地は得られなくなってしまう。


AIRFLOW社の製品の最大の特徴は、施工性の簡易さにある。

コンクリート埋込専用電線管(CD管)と類似のダクトを用いるのだが、直径75ミリ・内径63ミリという細さで、直角に近く曲げても風量が落ちないというのだから、ダクト工事で悩んでいる多くのビルダーにとって感動的な福音のはずだ。

尋ねてみたらやはりすでに、日本のある住宅会社から代理店契約の申し入れがあるだけでなく、昨日は中国の会社が見学に来たそうだ。

「鉢合わせしなくてよかったですね」と、久保田さんが肩を大きくすぼめて見せたので全員が大笑いした。


スウェーデンやデンマークには優れたMVHRがあるが値段が高い。

AIRFLOW社のものは性能的に負けてはおらず、しかも値段が安い。

Sigginsさん(写真の真ん中)はダクトを自在に扱いつつ、「どうだ!」と言わんばかりに胸を張り、一段と声を大きくして説明を続けた。

最初はゆっくりだったのでよかったのだが、熱が入ると喋りが早くなり、傍らに立つGreenstreetさん(写真の右側)が私たちの表情を観察してはノートに絵を描いて補足してくれたので助かった。


私は「涼温換気」について意見を求める予定でいたのだか、あまりにも熱心に誠意あふれるプレゼンをしていただいたのと、日本の住宅会社がアプローチしている状況に配慮してしないことにした。


AIRFLOW社のシステムは、基本的に従来のものと変わったところはなく、ダクトとその施工さがユニークなだけで、「センターダクト方式」とは相容れるものではなかった。

しかし、大量生産販売をする日本の住宅会社にとって、魅力的な提案であることは間違いない。今回のイギリス訪問で、私は「センターダクト方式の換気システム」の優秀さを再認識した。